千葉地方裁判所 平成7年(わ)1622号 判決
裁判所書記官
及川文子
被告人会社
株式会社八萬興業
(平成三年一二月五日に組織変更するまでは八萬興業有限会社)
本店所在地
千葉市中央区富士見二丁目四番九号
代表者の住居
同区春日一丁目一三番一号
代表者の氏名
川島四郎こと金泳春
被告人
川島靖子こと南相八
一九三九年一二月一三日生
国籍
韓国
住居
千葉市中央区春日一丁目一三番一号
職業
会社役員
主文
被告人株式会社八萬興業を罰金一三〇〇万円に、被告人川島靖子こと南相八を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人川島靖子こと南相八に対し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人株式会社八萬興業(平成三年一二月五日に組織変更するまでは八萬興業有限会社。以下、「被告人会社」という。)は、千葉市中央区富士見二丁目四番九号に本店を置き、飲食店の経営などを目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人川島靖子こと南相八(以下、「被告人南」という。)は、被告人会社の取締役として同会社の経理を担当しているものであるが、被告人南は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売り上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億八八二七円であったにもかかわらず、同年五月三一日、同区祐光一丁目一番一号所在の千葉東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四三五八万七二九六円で、これに対する法人税額が一五三五万八三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三六五一万六二〇〇円と右申告税額との差額二一一五万七九〇〇円を免れ
第二 平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が九九五六万八四八四円であったにもかかわらず、同年六月一日、前記千葉東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四五九四万一七〇八円で、これに対する法人税額が一六〇六万七八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三六一七万八〇〇〇円と右申告税額との差額二〇一一万〇二〇〇円を免れ
第三 平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が三八八七万六二二三円であったにもかかわらず、同年五月三一日、前記千葉東税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二四〇万一七七八円で、これに対する法人税額が三六一万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一三五三万九五〇〇円と右申告税額との差額九九二万八一〇〇円を免れ
たものである。
(証拠)(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)
判示全部の事実につき
一 被告人南の公判供述、検察官調書六通(乙一、一四ないし一八)、大蔵事務官質問てん末書一二通(乙二ないし一三)
一 被告人会社代表者川島四郎こと金泳春の公判供述、検察官調書一通(甲一七)、大蔵事務官質問てん末書一二通(甲五ないし一六)
一 村木篤の大蔵事務官質問てん末書八通(甲一八ないし二五)
一 加藤弘行(甲二六)、南義五郎(甲二七)の各検察官調書
一 五十嵐芳良の大蔵事務官質問てん末書一通(甲二八)
一 検察事務官の捜査報告書一通(甲四、なお、作成者の肩書きに検察官検事とあるのは検察事務官の誤記と認める。)
一 大蔵事務官の検査てん末処一通(甲二九)
一 大蔵事務官の査察官報告書二通(甲三〇、四七)
一 大蔵事務官の売上高調査書一通(甲三一)
一 大蔵事務官の委託人件費調査書一通(甲三二)
一 大蔵事務官の交際接待費調査書一通(甲三三)
一 大蔵事務官の旅費交通費調査書一通(甲三四)
一 大蔵事務官の租税公課調査書一通(甲三五)
一 大蔵事務官の受取利息調査書一通(甲三六)
一 大蔵事務官の割引債権償還益調査書一通(甲三七)
一 大蔵事務官の雑収入調査書一通(甲三八)
一 大蔵事務官の支払利息調査書一通(甲三九)
一 大蔵事務官の投資用絵画売却益調査書一通(甲四〇)
一 大蔵事務官の事業税認定損調査書一通(甲四一)
一 大蔵事務官の損金の額に算入した道府県民税利子割調査書一通(甲四二)
一 大蔵事務官の交際費等の損金不算入額調査書一通(甲四三)
一 大蔵事務官の脱税額計算書三通(甲四四ないし四六)
一 登記簿謄本二通(甲二、三)
なお、被告人南相八は、脱税の認識がなかったと公判で供述するが、前掲関係証拠によれば、同被告人には税についての認識、売り上げの一部を申告から除外する認識ともに存したことが認められるから、同被告人には本件脱税の故意に欠けるところはなく、本件はその証明が十分である。
(法令の適用)
一 被告人会社
(罰条) 第一ないし第三につき、いずれも法人税法一五九条一項、一六四条一項
第一、第二につき、情状により同法一五九条二項
(併合罪の処理) 刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの。以下同じ。)四五条前段、四八条二項
二 被告人南
(罰条) 第一ないし第三につき、いずれも法人税法一五九条一項
(刑種の選択) 第一ないし第三につき、いずれも懲役刑を選択
(併合罪の処理) 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も犯情の重い第一の罪の刑に加重)
(執行猶予) 同法二五条一項
(量刑の理由)
本件の脱税額は合計で五一一九万六二〇〇円と高額であり、国の課税権に対する侵害の程度は大きい。被告人南は、被告人会社の資金を管理していたものであるが、事業欲旺盛な被告人会社代表者からの資金捻出の求めに応じられるようにと、代表者に内証で、被告人南以外は金額の確認等を一切しない、しかも、売り上げ除外が容易なコンピューター管理外の現金収入について、売上げを一部除外し、仮名預金等の方法で蓄積していたものである。このような行為は、その納税義務を誠実に履行している大多数の誠実な納税者の信頼を裏切る行為であって到底許されるところではない。また、被告人会社には、被告人南の監督について落ち度があったものであり、その責任も重い。
しかし、現在被告人南は自己の行為が結局は被告人会社に多大な迷惑を及ぼし代表者を苦しめることになったことに深く思いをいたし、自己の非を悟っていること、被告人会社も自己の落ち度を認識してしかるべき対策を考慮していること、もともと被告人らには、本件以外に犯罪性向があるわけではなく、勤勉に努力して現在の地位を築いてきたものであり、地域社会に一定の貢献もしていることなど酌むべき点もあるので、それらも考慮し、被告人らに対し、それぞれ主文の刑をもって相当と判断した。
(検察官竹内寛志、弁護人水上学各出席)
(求刑 被告人会社につき罰金一七〇〇万円、被告人南につき懲役一年)
(裁判官 竹花俊徳)